豊浦神社の名称の由来

　 現在の小山田町住吉神社は資料によると、明治初年それまでの豊浦神社の名称を住吉神社（清崎神社とも言う）に変更された。 明治40年に大字下里村社青が原神社（あおがはらじんじゃ）と大字天野村　高瀬神社（たかせじんじゃ）を合祀（ごうし）して現在に至っているそうです。

　豊浦の名称はどこからきたのでしょう。祭神の住吉三神や武内宿禰を考えると、やはり、穴門の豊浦の宮（あなとのとようらのみや）の穴門でしょう。豊浦の名称は他にはありません。

　日本書紀巻第九によると、朝鮮出兵後、「軍に従いし神表筒男・中筒男・底筒男の三柱の神(住吉の神)が皇后にいうには、「わが荒魂（あらみたま）を、穴門（あなと）の山田の邑にお祭りせよ」と言った。時に穴門の直の祖先の践立（ほむたち）・津村の連の祖先、田裳見宿禰(たもみのすくね)、が皇后に「神が鎮座したいと仰せになる処に必ず、居る場所を定め奉るべし」と申し上げた。　それで践立(ほむたち)を以って、荒魂をお祭りする神主とされた。そしてお社を穴門の山田邑に立てられた。」とあります。

　穴門の住吉神社が祭る神は住吉三神の荒魂（あらみたま）です。河内長野市小山田町の豊浦神社の祭神もやはり住吉三神の荒魂（あらみたま）と推定されます。

　神様は独自に歩いたり船に乗ったりして移動することはありません。神様が鎮座(ちんざ)するということは、その神様を祭っている人々がそこに土着したということでしょう。古代において、後世に各地の神社で散見されるような、いわゆる、他所の神を招請するというようなことがない限り、その神様を祭っている人々がそこに土着したと考えるのが自然です。
　たとえば、出雲の神々が大和に祭られています。出雲の人々が大国主の神や、事代主の神を奉祭して大和に移住し土着した結果だと言われています。

　こうして、神功皇后摂政52年に、この錦部郡の地(南河内の昔の地名)に豊浦の名前のついた神社が創建されたのです。錦部郡豊浦神社（にしきべぐんとようらじんじゃ）の祭神が穴門(あなと)の山田邑に祭った住吉三神の荒魂と同じ遺伝子でむすばれていたということです。 それはまた、住吉三神の荒魂を奉じる穴門の山田邑の人々がここに移り住んだということを示唆しています。

　　この豊浦の名称の件について、よく研究された論文に「生駒甘南備社」のホームページ「小山田の住吉神社と仲哀天皇宮・御陵跡」の中に同様の見解が示されています。その筆者は「 葛城山地のふもとに広がる広大な住吉大社の神領地の一画、河内国錦部郡小山田の丘上に古くから祀られてきた住吉神社(もと豊浦神社・清崎神社)の南側の丘端に、仲哀天皇の御陵あるいは高向王の墓と伝わる大きな古墳があったといわれている。私は、古墳と住吉神社は、密接に深い関係があったと考えている。 仲哀天皇の陵との強い地元の伝承は、前方後円墳といわないまでも、山口県下関の長府にあった豊浦宮跡や、小さな「仲哀天皇殯斂地」の塚のこともあるので、豊浦神社とも呼ばれていた小山田の住吉神社を含めた一体的な考察が必要である。」
と考察されています。しかしもう一歩進めて、穴門の豊浦宮や仲哀天皇の棺の行方など、その時代背景を考察するべきであったと思います。

　住吉神社由緒書きによれば、神功皇后は神功皇后摂政52年には、この地に斎宮（いわいのみや）を建立され、3月壬朔（みずのえのついたち）に皇后吉日を選んで斎宮に入り自ら神主となってご祭祀されたとされています。神功皇后は何のため巡行されまた、何のためにこの地に斎宮を建立されたのでしょうか。

大阪府神社名鑑

前王廟陵記

河内長野市小山田の名称の由来

　小山田の地名の由来について、考察してみましょう。
　小山田邑の名称は日本書紀の文中に神功皇后が、仲哀天皇の崩御の後で斎宮を小山田邑に造らせたとあります。　
　この小山田邑は香椎宮に近い久山町上山田邑あるいは古賀市小山田斎宮が有力候補であることはさきに述べた。神功皇后が住吉神社を建てられた穴門の地名も山田邑となっています。

　山田あるいは小山田の名称が、神功皇后の斎宮や住吉神社にまつわる地名の名称として同じ遺伝子となっているのが分かります。
　河内長野市小山田町の地名も九州や穴戸の山田邑の地名と同じ山田という遺伝子を持っているのではないかと思われます。
　神功皇后が大和に凱旋しようとされたときの日本書紀の記述をもう一度吟味すると、この謎は解けるのではないかと思います。

　神功皇后が大和に凱旋するとき頃の状況から考えると、神功皇后が仲哀天皇の棺(ひつぎ)を納めて海路より京(みやこ)に向かっていた。長門豊浦の宮に仮埋葬されていた仲哀天皇の棺も海路、都をめざしていたと思われます。

　そのとき、一行と運命を共にした穴門の山田邑の人々がいたのかも知れません。
神功皇后紀によれば、神功皇后の一行は海路を難波を目指して進んでいったが皇后の船は敵の忍熊王が住吉の地で待ち伏せしていたためすすむことが出来なかった。とあります。そのため、南より迂回して堺市あたりに上陸し、　仲哀天皇の棺をかつぎ、河内長野の高天原とも呼ばれた尾上山上に到着した。

　河内の小山田には「壺ひき坂」あるいは「壺かずきの坂」という地名が残っています。仲哀天皇の亡骸は、壺に納められてこの地まで運ばれたと思われます。
　このルートは、水越峠を越えて大和に入る近道なのです。尾上山上から、はるかに金剛山や、水越峠を望むことが出来ます。しかし、神功皇后の一行はここで、引き返すことになったようです。このルートもすでに敵の手が及んでいたのかもしれません。後ほど検討いたしますが、仲哀天皇の亡骸はここに埋葬されました。

　穴門の住吉の神を奉斎する一族が、仲哀天皇の亡骸と共にここに土着したのかもしれません。　高天原と呼ばれていた一帯の丘陵地に穴門の山田邑の人々が新天地を開き、自分達の故郷の山田邑にちなんで、小さい山田邑と命名したと考えることが出来ます。自分達の故郷の地名を、新天地につけるという例はあります。九州にある地名と河内や大和にある地名の類似性に、その証拠がみいだされます。小山田村とは、 単に小さい山や田が点在していた土地という意味ではありません。

摂津国の住吉郡、住吉神社との関係
　
　日本書紀第五段第六の一書よれば、住吉の神は、イザナギの尊が黄泉国(よもつくに)から逃げ帰り筑紫の日向の小戸の橘(おどのたちなな)の檍原（あわきはら）に至り禊(みそぎ)払いされたとき生まれた神だとされています。

　 仲哀天皇が崩御され、神功皇后が、斎宮に入り親(みずか)ら神主となられて「先の日に天皇に教えられたのはいずれの神ですか。　その名を聞かせていただきたい。」と申しあげたとき、神はお答えになり。
　「日向の国の橘の小門(たちばなのおど)の水底に居て、水葉も稚(わか)やかに出現した神、名前は表筒男・中筒男・底筒男の神」と。このとき初めて名乗られたのです。もちろん、神が自ら言葉を発することはありません。住吉の神を祭る人達が神功皇后に語らせているのです。
　 皇后の朝鮮出兵を促し、和魂(にぎみたま)は王身(みついで)に従い寿命(みいのち)を守ろう、荒魂(あらみたま)は御船（みふね）の先鋒(せんぽう)として師船(みいくさのふね)を導かんと住吉神が、新羅征討を助けたのです。帰国の後、軍(いくさ)に従いし神表筒男・中筒男・底筒男の三柱の神(住吉の神)が皇后にいうには、「わが荒魂を、穴門の山田の邑にお祭りせよ」と言った。

　時に穴門の直の祖先の践立(ほむたち)・津村の連(むらじ)の祖先、田裳見宿禰(たもみのすくね)、が皇后に「神が鎮座したいと仰せになる処に必ず、居る場所を定め奉るべし」と申し上げた。　それで践立(ほむたち)を以って、荒魂をお祭りする神主とされた。そしてお社を穴門の山田邑に立てられたのです。

　皇后は忍熊(おしくま)の王が軍(いくさ)を起こして待っているとお聞きになって、武内宿禰(たけうちのすくね)に命じて、皇子を連れて難波より迂回して、南海に出て、紀伊の水門(みなと)に停泊させた。
　皇后の船は直接に難波をめざした。時に皇后の船は海中を巡り、進むことが出来なかった。それで、務古の水門(むこのみなと)（武庫川の川口か）に帰られて、占(うらな)われた。ここに、表筒男・中筒男・底筒男の三柱の神は「吾が和魂を、大津の淳中倉の長狭に居さしむべし。即ち、行きかう船の監視をしよう」と言われた。
　そこで、皇后は神の言われるままに、鎮(しず)め祭られた。すると、海を平穏に航海することが出来た。大津の淳中倉の長狭に祭られたのは住吉神の和魂だったのです。
　摂政11年4月　ここ津の国住吉郡いま大阪市住吉区に住吉神社が創建された。

　摂津住吉神社神代記によると、二上山〜葛城山〜金剛山にかけた大和葛城山地と、さらには西へ折れて紀淡海峡近くまで連なる和泉(葛城)山地にいだかれた南河内〜泉州にまたがる広大な地域の農耕・治水に関する記録「山河寄さし奉る本記」が記されていて、大阪南部の大半が住吉大社の神領があったことを物語っています。

　住吉神社の祭礼に現在の小山田町住吉神社の人々が参加したとも言われています。摂津の住吉神社の祭礼で 「小山田人足、そろたかな！」という掛け声が残っていると伝えられています。「生駒甘南備社」のホームページによれば住吉 大社の神輿の渡御式に際して「小山田人足揃ったか」と唱へられたのは、古来、当社から16名の神輿舁 みこしかつぎが、摂津の住吉大社へ送られたことによると伝えられているそうです。　人々と和魂を祭る人々が一緒になって、住吉の神の祭礼を盛り上げたのでしょう。 　

河内名所図絵　仲哀天皇宮

恵我長野西陵は仲哀天皇の御陵か
　　　　　　　　　　　　　河内に2つの長野あり

　仲哀天皇の陵はどこでしょうか。考古学では、河内国恵我の長野の陵は藤井寺市域にある恵我長野西陵に比定されています。

　錦部郡の小山田邑　住吉神社地の付近には神功皇后征韓に関する古伝が多い。地名遺産として、旗の坂や壷かつぎの坂等がある。　　江戸時代における天皇陵研究の先駆者であった松下見林（まつしたけんりん・1637-1703）はその著書『前王廟陵記』（元禄11年＝1698年刊）を著した。 仲哀天皇陵説は元禄年間（1688年〜1703年）ごろから唱えられたようです。当時の歴史学者、松下見林が著した『前王廟陵記』という本に、所在地として上原村があげられています。

　国道170号の野作南交差点から少し南へ下がった旧天野街道沿いに「仲哀天皇御廟」と刻まれた石柱があります。 しかし資料で見るかぎり『河内名所図会』では仲哀天皇陵説を否定し、高向王墓として説明しています。

そして、文化5年（1808年）に書かれた蒲生君平の『山陵志』や慶応2年（1866年）の平塚瓢齊の『聖蹟図志』で、仲哀天皇陵の上原村説が完全に否定されました。 　幕府が、仲哀天皇陵の場所を誤ったのは、河内に「長野」という地名が複数存在したからで、このことが混乱を生じた原因となったようですと記しています。


　要するに、恵我の長野には帝陵が多く、はっきりとはわからないが、その墓相をみると、およそ天皇の陵には見えないから、仲哀天皇陵にふさわしいのは、やはり河内国志紀郡　恵我長野西陵の前方後円墳であろうと推測しているにすぎません。墓の形状だけで判断しているように思えます。

　河内の国長野の陵については、藤井寺にある恵我長野西陵は仲哀天皇の御陵ではないという学者の意見もあります。それによりますと、この古墳は墳丘と堤から出土した埴輪は、窖窯(あながま)で焼かれたという共通の特徴を持っています。 それらの埴輪の特徴から、この古墳の築造は５世紀末から６世紀初めであると推定されており、市野山古墳(允恭天皇陵)よりも新しく、野中ボケ山古墳(仁賢天皇陵)よりも古いと考えられます。そうなると、父である仲哀天皇の陵が応神天皇の陵・誉田御廟山古墳より何十年も後に造られたことになります。 応神天皇陵の比定の方が信頼度が高いとする見方が多く、岡ミサンザイ古墳を仲哀天皇陵に比定することを疑問視する研究者は少なくありません。（藤井寺しホ−ムペ−ジより）

　日本書紀の記述を検討してみよう。仲哀天皇の陵について「神功皇后摂政二年の冬十一月天皇を河内国の長野の陵に葬りまつる。」とある。
当時、河内の国には長野という地名が二箇所あった。今、藤井寺市にある辛国神社のあるところ の地名が長野という地名で昔、長野神社があったと言われていて、藤井寺市によれば、辛国神社は　明治時代に長野神社を合祀したとされています。そして河内国の長野の陵はその墓の規模や、帝陵の分布から藤井寺にある恵我長野西陵が治定されたようです。

　江戸時代に蒲生君平や平塚瓢齊には、筑紫や長門か大和に凱旋した当時の神功皇后の軌跡やその当時の歴史の検討がなされておらず、単なる墓相や長野という地名に惑わされ間違った結論になったのでしょう。幕府の役人も幕末に調査を行ったようであるが、結論をださないまま調査を終了し、明治新政府によって、藤井寺にある恵我長野西陵が治定された。

往時の塚穴古墳(河内長野市　高向)

塚穴古墳　由緒書

壺ひき坂	現在の西山と御陵(鉄塔の下)

仲哀天皇の棺(ひつぎ）の行方

　神功皇后の一行は、大和への近道を求めて、河内の錦部郡から金剛山と葛城山の峠をめざして、石津川をさかのぼり、上流を陶器の郷から、そして上神郷を通り、逆瀬川と呼ばれたあたりの国境を越えて、河内国錦部郡へ向かったのです。
　途中、和泉国や河内国の香坂(かごさか)・忍熊(おしくま)勢力の様子を聞くために、 斥候(せっこう)を送り道中の報告を聞いた一行は、危険を察知し、ここで水越峠越えを残念し、紀州から紀ノ川伝いの道で大和に凱旋しよう考えた。そこでお荷物となる仲哀天皇の棺(ひつぎ)は河内国錦部郡の高天原と呼ばれた神聖な土地に埋葬して、 身軽になり来た道を引き返し、堺から船で紀伊の方面へ南下していった。と想像することができます。

伝仲哀天皇御陵　上原町西山

仲哀天皇の御陵は上原八幡宮

　住吉神社の由緒書によれば、神功皇后の三韓征討の凱旋の帰途なのでしょう、鉾(ほこ)を立て一行を旗の坂(はたさか)に出迎えたの人が名主(なぬし)与三五郎という者であったと考えられます。

　一行が担いできた荷物の壺の中身も問題です。伝承によると、その中身は、軍用品であったでしょうとか、水甕であったとか言われているようです。しかし。重い壺に入れられた中身には、貴重なものが入れられていたと思われます。私には 仲哀天皇のご遺骸が壷に入れられ、それを大勢の人が担(かつ)いだ坂が、壷(つぼ)かつぎの坂、あるいは壷引き坂であったと思います。
　
　各地に残る名残が神功皇后一行の行跡を今に伝えています。 日本書紀に　「摂政二年　冬十一月　仲哀天皇を河内国の長野の陵に葬る。」とあります。 忍熊王との戦争が終わったのが摂政元年の冬十月です。まだ、天皇の棺は河内国の長野の陵にあります。それは、神功皇后が三韓征討の帰途に壷に入れられたあの棺です。河内国錦部郡(にしきべぐん)の天野の高天原以外に考えられません。

　仲哀天皇の御陵(みささぎ)は神功皇后摂政二年冬十一月、天皇を河内国長野陵に葬ったとあります。
　文言どおり、仲哀天皇の御陵は上原八幡宮のあるところ、「上原村の西、一面の田んぼから丘に続く参道があり。小高い広場から鳥居をくぐり、石段を上がると茅葺の拝殿があり。さらに石段を登った所が仲哀天皇宮の本殿で社殿は東面している。 その南側に上原八幡宮があり、後ろの小山が仲哀天皇の御陵となっている。」にあります。

　日本書紀によると、仲哀天皇の棺は「摂政２年　冬十一月　仲哀天皇を河内国の長野の陵に葬る。」とあります。忍熊王との戦争が終わったのが摂政元年の冬十月です。藤井寺にある恵我長野西陵と呼ばれる仲哀天皇の御陵が、政権の財政基盤も整わない摂政２年　冬十一月に巨大な前方後円墳を築くことはできないでしょう。莫大な費用をかけて、領民を動員しなければ、巨大な古墳は築けません。そもそも、この時代に前方後円墳が築かれていたのでしょうか。ホケノヤマ古墳に始まるとされる前方後円墳は卑弥呼の墓とも言われる箸墓古墳が最も古いと言われています。

　むしろ、河内名所図絵の上原八幡宮のあったところこそ、この時期にふさわしい墳墓ではないでしょうか。摂政二年の頃は、忍熊王との戦争が終わったばかりです。あの荒廃した、西山神社の御陵を掘ると、きっと 仲哀天皇の棺(ひつぎ)が亡骸とともに姿を現すことでしょう。今は、鉄塔の下敷きとなって。陵墓の跡形も見えませんが、昔の陵墓の墳丘の中央のみが鉄塔のお陰で、壊されずに残っています。
　生駒甘南備社のホームページより略図を引用します。

馬かけ神事の始まり

　 馬駆け(うまかけ)神事(しんじ)の起源について考察いたしましょう。想像に任せるしか、根拠はありませんが、住吉神社由緒書のとおりと考えると、神功皇后が忍(おし)熊(くま)の王との戦いに勝利し、政権の基盤も整って、摂政五十二年に神功皇后が天下を巡行された。その時、逆瀬川(さかせがわ)の上流の騰(ほむう)舵(だ)船(む)と言うところに到着された。そこで鉾(ほこ)を立て一行を地名遺産の旗(はた)の坂(さか)に出迎えた人が名主(なぬし)与三五郎という者であったと考えられます。河内錦部郡の人々が旗を立て歓迎し、道中の案内に立ったことでしょう。

　逆瀬川(さかせがわ)の上流の騰(ほむう)舵(だ)船(む)という地は具体的には不明ですが、どのような、旗であったか知る由もありません。　皇祖神の天照大御神の故郷が太陽の昇る大海原であったことを考えると、青い海と白波に象徴される麻布で染めた青い旗や木綿でできた白い旗ではなかったかと想像します。

　 岡の県主(あがたぬし)の祖先の熊鰐(わに)は、仲哀天皇が行幸されると聞くと、あらかじめ五百枝(いほえ)の榊(さかき)をぬきとり、九尋(ここのひろ)の舟の舳先(へさき)に立てて、上枝には白(ますみの)銅鏡(かがみ)をかけ、中枝には、十握(とつか)剣(つるぎ)をかけ、下枝には、八尺(やさかに)の勾玉(まがたま)をとりかけて参上しお迎えした。これは、天皇にたいする、最高のおもてなしです。筑紫(つくし)の伊覩(いとの)県(あがた)主(ぬし)の祖先で五十(い)跡手(とで)もまた同様の歓迎をしています。名主(なぬし)与三五郎という者もこれにつぐ歓迎のおもてなしをしたことでしょう。 旗の坂の所在地については、大阪・河内の国錦部郡小山田邑と和泉の国　泉北郡神谷村に通じる国境にあったといわれています。地名遺産の旗の坂とは、神功皇后の征韓凱旋陣の時、旗を立てて休息され給いしところといい、鉾(ほこ)を立てて勢揃いされたところとも言われています。　場所の特定はできませんが、今、堺市畑と呼ばれる町のあたり、逆瀬川の上流にある坂道にあったのでしょう。畑村はもしかして、旗村ではなかったかと思われます。

　 神功皇后が摂政五十二年に天下を巡行された時、この地に斎宮(いわいのみや)を建立(こんりゅう)され、皇后みずから大阪・河内錦部郡小山田の斎宮に入り、祭祀が行なわれたようです。何の祭祀だったのでしょうか。 たぶん、神功皇后が昔を思い出され、不慮の死を遂げた夫の仲哀天皇の祭祀を行ったと考えるのが自然です。他に、わざわざ、皇后がこの地に斎宮を創建する理由がありません。また、斎宮に入って祭祀を行う理由もありません。 そのとき神功皇后が自ら馬の手綱を取って住吉の神に神馬を奉納されたのでしょう。

　あるいは、伝承のとおり、神馬の手綱をもって駆けられたのかもしれません。河内長野市の説明板では、神功皇后の御征韓祝賀のため裸馬の競争が行われたとあります。 摂政五十二年に神功皇后の御征韓祝賀とありますが、これには、すこし違和感があります。 仲哀天皇九年　冬十二月に神功皇后は　三韓征伐より凱旋されました。それからすでに五十二年も経過しています。凱旋の祝賀とは、普通に考えても戦勝から帰還した時に行われるものです。古代のこととはいえ半世紀も経過してから、凱旋の祝賀を行うことはありません。たぶんこのとき摂政五十二年に神功皇后は仲哀天皇の陵を仰ぎ鎮魂の儀式を行ったのです。そこで、住吉の神に神馬を奉納されたと考えるのが普通でしょう。　

　馬かけ神事には、このように神功皇后の仲哀天皇に対する鎮魂の祈りが込められていたのです。神功皇后は仲哀天皇が神の意向を無視したために、天皇に新羅征討を期待していた人々の意向に沿わなかったために、崩御されたという昔の記憶が、気比(けひ)の大神(おおかみ)への参詣による禊(みそぎ)祓い(はらい)によっても払しょく出来なかったという悔悟(かいご)の思いが、皇后に残っていたのです。神功皇后が御征韓祝賀のため裸馬の競争を行ったとは考えられません。 それに、この当時はまだ、裸馬の競争をするほど、馬が一般に飼われていたのかどうかは、少し疑問です。時代が下って、応神天皇の十五年に百済の王が良馬二匹を献上しています。馬は、まだまだ貴重な動物だったのです。

不思議な壺

　 　河内名所図絵に描がかれた仲哀天皇の御陵と思われる仲哀天皇宮は西山神社のあった所で今、鉄塔の下敷きになっています。
　私は仲哀天皇の御陵から出土したと思われる壺を発見いたしました。御陵近くの古い民家の片隅に人知れず残っていたのです。幼い頃、母からその壺の不思議な文様について聞かされていたことを思い出しました。菊の紋章が古色に浮かんでいた記憶がよみがえってきたのです。遠い昔のかすかな記憶が、私の心の中でにわかに輝き出す興奮を、なんと表現すればいいのでしょう。
　むかしの記憶を説明し、民家の女主人にお願いして、その壺を拝見したいとお伝えした所、彼女の記憶では、なにか尊い壺ということで、新築の際、住吉神社に奉納したとのことでした。
　早速、住吉神社の宮司様にこのことをお伝えし、不思議な尊い壺を拝見したい旨を告げると、そのようなものは見つからないとのこと。少し落胆していた頃、宮司様より電話連絡があり、神様の拝殿の奥に発見いたしましたとのこと。
　ご探索に感謝し、発見の報にむねを躍らせて、早速拝見させていただくことといたしました。
　 古色豊かな甕壺でした、菊の文様が全面に浮かんでいます。果たしてこの壺は、仲哀天皇の亡骸を収めて、海路はるばる穴門豊浦から瀬戸内海をとおり、この尾上山まで運ばれてきた壺なのだろうかと考察した。壺ひき坂という地名にもなった、その壺なのだろうか。自問自答を繰り返している私です。一説によると、江戸時代に仲哀天皇宮が発掘されたとも聞いています。そのようなことがあって、仲哀天皇の亡骸を収めた壺が近くの民家に密かに保管されたようです。いずれにしろ、貴重な歴史の証拠と云えるのではないでしょうか。


　ユニークな小山田町の馬駆け神事は、現代にも続いている河内長野の貴重な歴史遺産です。こんな貴重な河内長野の歴史遺産を見直してみてはいかがでしょう。遠い昔のまぼろしが化石のように残っている日本の宝なのです。

　　私の小山田古代史探索も終わりになりました。いつか、あの上原八幡宮のあるところが正式な陵墓であることが明らかにされる時がくると思われます。陵墓の上に立つ鉄塔が今もその調査を拒んでいます。また同様に、宮内庁が恵我長野西陵の発掘調査を行ったときに明らかになるでしょう。　 　　完