（本文）
よって、群臣(まえつきみ)に申されるには、「おおよそ、戦（いくさ）を起こし軍兵を動かすは、国の大事なり。安さも危うさも、必ず是に在り。今、征伐する国がある。しかし戦（いくさ）をするかどうかを群臣（まえつきみたち）に託すると。もし事がならなければ、罪は群臣（まえつきみたち）にある。これはなかなか、心の傷（いたむ）ことである。
私は婦女(たおやめ)であり、また不肖の身である。 しかしながら、しばらく男の姿になって強引にも、雄大な略(はか)り事を起こそうと思う。上は天つ神(あまつかみ)や国つ神の霊験（みたまのふゆ）をいただき、下は群臣（まえつきみたち）の助けによって、戦（いくさ）を起こし高き波を渡り、艦船（ふね）を整えて財の国を求めようと思う。
もし、事が成功すれば、群臣（まえつきみたち）は共に功（いさおし）あり。失敗すれば、自分独りに罪がある。すでにこうした決意である。、それでは皆で議論をせよ」と仰せられる。群臣（まえつきみたち）は皆申し上げる、「皇后は天の下の人々のために宗廟(くに)や家の安寧を計画しておられる。また、事が成らなかった場合罪は臣下に及ばないだろうと仰せである。謹んで詔(みことのり)を受けたまわろう」と申しあげた。
秋九月庚午（かのえうま）の朔巳卯（ついたちつちのとのうのひ）に、諸国に命令して船を集め、軍兵を募る、しかし兵が集まらなかった。皇后は「これは、きっと神の御心だろう」とおおせになり、大三輪社（おおみわのやしろ）を立て、刀や鉾（ほこ）を奉られた。すると兵員は自然に集まった。
＜ 注釈 皇后が如意宝珠の霊験に自信を深めた結果、皇后を操る人々の意向を聞いて、上は天つ神(あまつかみ)や国つ神の霊験（みたまのふゆ）をいただき、下は群臣（まえつきみたち）の助けによって、戦（いくさ）を起こし高き波を渡り、艦船（ふね）を整えて財の国を求めようと思うと新羅を討とうと決意されるところです。
しかし思いの通り兵が集まらない。住吉の神を奉じる人々や事代主の神を奉じる人々だけでは、兵の数が不足したのでしょう。そこで皇后は大三輪社を立てて刀や鉾を奉りなさった。すると兵員は自然に集まった。
この時代、まだまだ、大国主の偉大さが残っていたのでしょう。出雲の神、大和の三輪山に祭られた八千矛の神（やちほこのかみ）、大和大国魂(やまとおおくにたま)と呼ばれた神のご威光が必要だったのです。＞
（本文）
そこで、吾閉島（あへのしま）の海人で鳥摩呂（おまろ）という人を、西の海に出て国があるかどうかを偵察させる。鳥摩呂は還ってきて、「国も見えず」と申し上げた。 さらに、磯鹿の海人、名前は草(くさ)を派遣して偵察させた。日を数えて還ってきて、「西北の方に山あり、雲がかかって横たわっている。もしかして、国が有るか」と申しあげる。ここに吉日を占って、出発されようとなさったが、日を数えて待機された。時に皇后は、自ら斧鉞(おのまさかり)をとって三軍(みたむろ)の兵に命令された。
「金鼓節(かねつづみわきだめ)無く、旗が乱れるときには、士卒(いくさのひとども)は整わず。財を貪り多欲(ものほしみ)して、私を懐(おも)いて内を顧みれば、必ず敵のために捕虜となるだろう。其れ敵少なくとも軽んじてはいけない。敵強くとも怖(お)じてはいけない。すなわち、犯し暴(しの)がん人を許すな。自ら服従する人を殺すな。遂に戦いに勝てば必ず賞あるだろう。逃げ走れば自から罪有るだろう。」とのべられた。
既にして、神の教えることがあって申されるには「和魂(にぎみたま)は王身(みついでみ)に服(したが)いて寿命(みいのち)を守らん。荒魂(あらみたま)は先鋒として師船(みいくさ)を導かん」とのべられた。 即ち、神の教えを得て拝礼され。依って、依網吾彦男(よさみのあびこお)垂見（たるみ）を神主とされた。その時はたまたま 、皇后の臨月(うみづき)の時に当たっていた。皇后は石を取って腰にさし挟み、お祈りして仰せられるには、 「事を終えて帰った日に生まれ給え」と仰せられた。その石は、今伊都の県の道のほとりにあり。
すでに荒魂を招きたまいて、軍(いくさ)の先鋒とし、和魂(にぎみたま)を請い 招いて王(み)船の鎮(しず)めとしされました。
＜ 注釈 いよいよ出発です。事前に住吉の神を祭っている人々が皇后に身辺の警護と軍船の先導を約束するのです。皇后は住吉の神を祭っている人々に感謝して依網吾彦男(よさみのあびこお)垂見（たるみ）を神主とされて拝礼された。臨月(うみづき)の時に当たっていた皇后は、お祈りして「事を終えて帰った日に生まれ給え」と仰せられた。その石は、今伊都の県の道のほとりにある。住吉の神を祭っている人々を招いて戦の準備をし身辺の警護にあたらせた。
ここで、和魂と荒魂について説明しておこう。神道において神の働きの側面として、2つの概念で説明されている。和魂とは神の慈しみや平和の心で、神のご加護の働きである。荒魂は神の荒ぶる側面で、争いや戦いの心で、天変地異や病などを引き起こす働きがあるとされています。もちろんこれらの概念は、人の心の働きであり、人には神の心と同じ側面があるとされています。＞
香椎の宮 絵馬 |
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大阪住吉大社 絵馬 |
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神功皇后の決意
新羅出兵と神のごとき戦果