はじめに 仲哀紀を読み解く 仲哀天皇の出自 神功皇后への贈り物 熊鰐(わに)の歓待 五十途手(いとで)の歓待 神の宣託 仲哀天皇の崩御 斎宮の造営　と　神の正体 神の霊験 神功皇后の決意 新羅出兵と神のごとき戦果 住吉の神への恩賞 大和への凱旋と忍熊王との戦い 戦勝報告と禊 神功紀のあとがき 河内長野市の小山田村古代史 河内長野市　住吉神社由緒書 神功紀年表 日本書紀の小山田邑はどこか 河内国に豊浦神社創建 河内国　長野の陵はどこか まぼろしの壺 資料およびリンクのペ−ジ

熊鰐(わに)の歓待 （本文） 日本書紀　巻第八 　九月、天皇の宮殿を穴門に建てられました。これを、穴門豊浦宮（あなとのとようらのみや）と申しあげる。 足仲彦天皇八年の春正月の己卯（つちのとう）の朔壬午（ついたちみずのえうまのひ）に、天皇は九州の筑紫（つくし）に行幸（ぎょうこう）されました。その時、岡の県主（あがたぬし）の祖先の熊鰐（わに）が、天皇が行幸されると聞いて、あらかじめ五百枝の榊(いほえのさかき)をぬきとり、九尋（ここのひろ）の舟の舳先（へさき）に立てて、上枝には白銅鏡（ますみのかがみ）をかけ、中枝には、十握剣（とつかつるぎ）をかけ、下枝には、八尺の勾玉（やさかにのまがたま）をとりかけて、周防の沙麼(さば)の浦(山口県防府市佐波か)に迎えにきた。 　そして魚塩(なしお)の地を献上しました。そして天皇に申し上げるには「穴門より向津の大済（むかいつのおおわたり）に至るまでを東の門とし、名籠屋（なごや）の大済（おおわたり）を以て西の門とする。没利嶋（ぼつりしま）・阿閉嶋（あへいしま）を限りて、御筥(みはこ)とし、柴嶋（しばしま）を境として、穀物を献上する土地とする。逆見海（さかみのうみ）を以て塩を献上する土地とする。」と申し上げる。すでに海の路を先導して天皇に仕えている。 ＜注釈　　　　岡の県主の祖先で熊鰐（わに）という人物は、天照大御神を祭る天皇を歓待するため、五百枝の榊をぬきとり、九尋の舟の舳先（へさき）に立てて、上枝には白銅鏡をかけ、中枝には、十握剣をかけ、下枝には、八尺の勾玉をとりかけて歓迎した。三種の神器を掲げて天皇の筑紫への行幸を歓迎することは、朝廷に対する最大のおもてなしです。さらに天皇に穀物や魚や塩のとれる土地を献上して歓迎したということでしょう。岡の県主の祖先の熊鰐（わに）は、天皇が行幸されると聞いて、なぜ仲哀天皇の筑紫への行幸をこのように歓待したのでしょうか。＞ （本文） 　山鹿の三崎「筑前の国遠賀郡山鹿の郷か」より巡って、岡浦に入ります。水門（みなと）に到着すると、天皇の御舟は進みゆくことができなくなった。天皇は熊鰐（わに）に「お前は殊勝な心でわがそばにやってきた。どうして舟が進まないのだ。」と聞かれた。熊鰐（わに）が天皇に「御舟が進みがたいのは、自分のせいではありません。この、岡浦の入り口に男女（ひこがみひめがみ）の二柱の神がいます。男神（ひこがみ）を大倉主（おおくらぬし）といい、女神（ひめかみ）をツブラ媛と言います。きっとこの神の仕業でしょう。」と申し上げた。　天皇はお祈りをされ、船のかじ取りで倭(やまと)の国の宇陀(うだ)の人伊賀彦を神様をお祭りする祝(はふり)(巫女のこと)となさいました。そうすることで御舟は前進することができた。 ＜注釈　　　　　行く先に土地の神が居て、その神にお供えをして祭らなければ、天皇とて自由に行幸できなかったということです。天皇は、天神である天照御大神を祭っています。しかし、天皇はまた地祇（ちぎ）と言われる土地の神を祭らなければ、その地方を統治できないのです。大倉主やツブラ姫は岡浦の土地の開拓に功のあった神なのでしょう。その神をお祭りしなければ、無難に物事は進行しないのです。神武天皇が大和に政権を打ち立てて、大和を支配出来たのも、地祇と言われた、大三輪の神(大国主の命)を祭ることが出来たからなのです。祭祀の権利を手に入れることが出来たからなのです。＞ （本文） 　皇后は天皇とは別の船を召されて洞海（くきのうみ）より岡の浦に入られます。しかし潮が引き進みゆくことができません。その時岡の県主（おかのあがたぬし）の祖先で熊鰐が帰ってきて洞海（くきのうみ）より皇后を迎え入れようとします。しかし皇后の舟が進まないのを見て恐れかしこまって、すぐさまに魚沼（うおいけ）・鳥池を作って、ことごとくに魚や鳥を集めた。皇后はこの魚や鳥の遊びをご覧になってお怒りのこころをようやくお解きになった。潮が満ちてすぐに岡の津に停泊された。 ＜注釈　　　岡の県主（おかのあがたぬし）の祖先で熊鰐が皇后を洞海（くきのうみ）より迎え入れようとします。しかし皇后の舟が進まないのを見て恐れかしこまって魚沼・鳥池を作って神功皇后を接待した。 五十跡手(いとで)の歓待 　また筑紫（つくし）の伊覩県主（いとのあがたぬし）の祖先で五十跡手（いとで）は天皇が行幸されるのを聞き、榊（さかき）を抜き取り舟の舳先（へさき）に立て、上の枝には勾玉（まがたま）を掲げ　中枝には白銅鏡（ますみのかがみ）を掛け、下枝には十握剣（とつかつるぎ）を掛けて穴門の引嶋（ひきしま）に参上しお迎えした。 　そして奏上するには、「私があえてこれらの物を献上する理由は、天皇が勾玉の曲がれるように、うまく天下を治めてください、また、白銅鏡（ますみのかがみ）のようによく山川海原をご覧になってください、それでこの十握剣（とつかつるぎ）を持って天下を平定してください、という意味です。」と奏上した。 　天皇はそれで、五十跡手(いとで)を誉められて、「伊蘇志（いそし）」と名づけられた。それゆえ世間では、五十跡手の本の国を名づけて、位蘇の国（いそのくに）という。今に伊都（いと）というのは、言葉が変化したものです。二十一日、天皇は博多地方に到着され、橿椎の宮（かしいのみや）におられました。 ＜注釈　　筑紫の伊覩県主（いとのあがたぬし）の祖で五十跡手（いとで）もまた、岡の県主の祖で熊鰐（わに）と同様に榊（さかき）を抜き取り舟の舳先（ふねのへさき）に立て、上の枝には勾玉（まがたま）を掲げ　中枝には白銅鏡（ますみのかがみ）を掛け、下枝には十握剣（とつかつるぎ）を掛けて穴門の引嶋（あなとのひきしま）に参上しお迎えした。天照大御神の象徴である白銅鏡（ますみのかがみ）や天皇の象徴でもある三種の神器を掲げている。 　五十跡手(いとで)は天皇に「私があえてこれらの物を献上する理由は、天皇が勾玉の曲がれるように、うまく天下を治めてください、また、白銅鏡（ますみのかがみ）のように、よく山川海原をご覧になってください、それでこの十握剣を持って天下を平定してください、という意味です。」と念を入れて、理由付けをしています。これは、天皇にたいする五十跡手一族の期待を述べているのです。天皇に何を期待しているのかが、この物語の焦点になって来るのです。＞